脱毛を魅力的に見せるコツ
ひとつには医者や医療機関に引責する意志も能力もないという点て、またひとつには医者や医療機関が支払える掛け金ぐらいで賠償金をペイできる保険会社がないという点て、「黙っておれの言うとおりにしろ。
全責任は取ってやる」と言えるような関係は成立しなくなった。
「あなたの場合、治療法として、これとあれがあります。
これなら九十パーセントこうなります。
あれなら六十パーセントああなります。
どちらになさいますか。
ああ、これにされるのですね。
これに決めたのは、あなたですよ。
わたしはちゃんと説明しましたからね。
では、ここにサインを」ということなのである。
もちろん、この百年、教育の普及と人権尊重の進展によって、あらゆる領域で「知らしむべからず、由らしむべし」とはいかなくなったことも一因である。
村の偉いさんが村長・教師・坊主・駐在・医者だけというわけではなくなった。
ひとりひとりが一人前の参政権をもち一丁前の口がきけるようになったのだから、病気に関してだけ「お医者様にすべてお任せして一切文句は言いません」とはいかない。
また、ひとりの患者の医療費を考えると、とても医療機関がその人の人生や生命に関して全責任が負えるほどの額ではない。
そうなると、事情をちゃんと説明して本人に判断してもらうほうが双方納得ずくの関係が成立しやすかろう。
これは決してロマンチックあるいはヒューマニスティックな関係ではない。
客はメニューを見せられて注文し、サーヴィスされたものが気に入らなければ二度とその店には行かないようにすればよい、というだけの交渉になる。
わたし個人は、医者としてはもちろん、一患者としてでもこうしたドライな関係を好むが、多くの人々が医療に対して抱くイメージやニーズという点では相当かけはなれたものになるのではなかろうか。
これまで、特に解説抜きでガン、ガンと書いてきた。
それというのも、最近では医学・保健関係者以外の、いわば素人の方でも結構詳しい最新情報をご存じだから、わざわざ説明するまでもあるまいと思っているためである。
なんといっても多い病気だし、死因のトップで、自分もそのうちなるかもしれないとなると関心は高いはずだ。
しかし、いくら書籍雑誌、テレビ、インターネットなどでガンの知識を仕入れたとしても、系統的に解剖・病理から臨床各科まで修めたというのではないわけである。
まして病変を直に見たり触ったりしたこともないだろうから、わたしが持っているガン知識とは質的に違ったものだろう。
冒頭にも書いたとおり、わたしのガン知識といってもガン専門医ほど詳細かつ最新のものではない。
半分しろうとみたいなものである。
それでも、ひとあじ違うはずなのだ。
まして現在、そのガンと接近遭遇してしまったところなので、他人事や研究対象としてのガンではなく、現在なお体内に居着いているだろう身近なガンについての知識ということになる。
そこで、ガンとは何か、についておさらいしておくことにしよう。
そうでないと、著者が「ガン」という言葉で指している内容と、読者が「ガン」という言葉からイメージする内容とが大きくずれてしまうかもしれない。
ガンというのは、ふつう悪性腫瘍を総称した名前である。
腫瘍というのは別名「新生物」で、からだのどこかに全身の統制に服さない細胞集団が新たに発生する事態を指す。
便宜上、これを良性と悪性に分ける。
原則として無制限に増大せず転移もないのが良性で、どんどん増殖・浸潤・散開を示すのが悪性である。
ただし良性腫瘍でも出来た場所がわるいと(たとえば頭蓋内など)命取りになることがある。
こんな場合「臨床的に悪性の」腫瘍という。
また良性とも悪性ともっかない中途半端な腫瘍も、もちろんある。
悪性腫瘍には癌腫と肉腫がある。
癌腫とは、上皮性の組織(ふつう皮膚か内臓)から発生した統制不能の細胞集団を指す。
肉腫は上皮性組織以外の母体から発生した悪性腫瘍である。
骨ガンとか筋ガンとかの言葉がないのは、骨や筋肉が上皮性組織ではないからで、それらに発する悪性腫瘍は骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫などという。
いわゆる「血液のガン」も、血液や骨髄が非上皮性組織なので肉腫に属する。
肉腫より癌腫のほうが圧倒的に多いから、悪性腫瘍を代表する一般用語としてガンが使われるようになっている。
なぜ正常細胞かガン細胞に変化するのか、つまりガンの原因は何か、というと、これはもう端的に、DNAの塩基配列(遺伝子)にエラーが生じたためである。
最初からエラーがある場合には胎児や新生児の段階でガンにかかることさえある。
生来的に、遺伝子にエラーが生じやすいか、エラー修復機構がうまく働かないようなら子どものうちにガンになることもある。
しかし、大多数のガンは中年以後に発病する。
遺伝子エラーの頻度が高まり蓄積してくると同時に、いったん生じたガン細胞を再正常化できなくなり、またそれを処理してしまう免疫機能も低下してくるためである。
どうなったらガン細胞になるかは全貌がつかめないが、ガン細胞になったらどうなるかはいろいろわかってきている。
たとえば、テロメラーゼという酵素をさかんに産生して、染色体をいくら複製しても細胞が老化・摩耗しないようになってしまう。
ふつう、こうした増殖促進機構のオンーオフは生存や発達のため絶妙にコントロールされているはずなのだが、この調整メカニズムが故障する。
このように抑えがなくなると、ガン細胞というのは深い考えもなく分裂して増える。
もともと細胞というのはどんどん分裂していくポテンシャルをもっている(なんといっても一個の受精卵から何十兆個の細胞から成る成体にまで発達したのだ)のだが、成長後は補充用にしか分裂しないようコントロールされていた。
そして規定の回数だけ分裂すると勢いがなくなって衰微するようにもなっている。
そのブレーキが作動しなくなる。
また、周囲に膨らんだり浸潤したりして拡がるばかりか、血行やリンパ流に沿ってあちこちに散らばることも多い。
正常組織に比べてガン病巣では増殖速度が大きいだけでなく、細胞同士がしっかり結びついていないからでもある。
もっともガン細胞か正常細胞に比べて、あらゆる点てタフというわけではない。
むしろ脆弱な側面も有している(たとえば熱や放射能や免疫的攻撃には弱い)。
したがって、臨床的にガンが発病するのは、一つには正常細胞がガン化する原因(つまり遺伝子エラーの蓄積や、その修復困難をもたらしやすい要因)と、ガン細胞がどんどん増殖することを宿主が阻止できなくなる原因(抗腫瘍免疫やその他の防衛機構が破綻する要因)の両者が揃うからである。
数十年前までは、発ガンの研究ばかりが目立ったものだが、ここ二十年ほどはガン抑制遺伝子や抗腫瘍免疫の研究が目立つようになってきた。
昔は、発ガンの要因をはっきりさせて、それを避けさえすればよい、という発想だった。
ところが発ガン要因は無数(生活習慣、食品、化学物質、大気汚染、ウイルス、ホルモン、素質、加齢、放射能その他)にあって、とても完全な発ガン防止は困難である。
そこで今度は、少々発ガンするのはしかたがない、ガン細胞が出来る先から芽を摘んでいくように抗腫瘍機能を強化すれば発病せずにすむ、という発想にシフトしてきた。
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